クリエイターエコノミー・個人経済圏を因数分解する
クリエイターエコノミーという言葉
クリエイターエコノミーがバズワードになっています。
きっかけは、個人の多様な生き方の尊重、流動的な労働力の必要性等から、フリーランスの働き方が再評価されたり、SNS等の個人を支えるインフラが整ってきたことだと考えています。
そして昨年2021年はClubhouseやSubstackが世界的にヒットし、Twitterもマネタイズ機能を実装したり、TikTokでライブ配信などができるようになったことで、それを更に加速させた一年でもありました。
でも、個人的には少し違和感を持っています。
「クリエイターってなんだろう?」
クリエイターで検索すると、
クリエイターとは、クリエイティブ業界で活躍する職種の総称です。 プロデューサーのほか、ディレクター、演出家、プランナー、デザイナー、アニメーター、プログラマなどの職種が代表的です。
だそうです。
つまり一般的な解釈は、ものづくりしている人もしくは、クリエイティブ業界の職種。
ただ、雰囲気的には、YoutuberやTikTokクリエイターのような発信者や、新しいライフスタイルのエヴァンジェリストもクリエイターとして扱われているような気がします。
実態としては、とても広義で曖昧な言葉になっています。
なので、クリエイターエコノミーというキーワードも曖昧になってしまうのも当然です。
その曖昧さから、クリエイターエコノミー=個人経済圏と扱われることもあり、そうすると、
「メルカリとかBaseとかクラウドワークスとかもクリエイターエコノミーなの?」
みたいな疑問が浮かびます。
そのように共通言語が曖昧な状態では、クリエイターエコノミーを考える際、理想も打ち手も語れないんじゃないか、健全な切磋琢磨ができないのではないか。
そんなことを考えて、クリエイターエコノミーの当事者として、クリエイターエコノミーをあえて個人経済圏よりに少し広義に解釈し、再整理してみようと思い立ちました。
再整理する軸は、当事者となる人の分類、すなわちトライブです。
いろんな人に何かを提供するのがクリエイターエコノミーではなく、人を分類して、それぞれ毎に適切な提供すべきサービスがあるはず、それをしっかり切り分けましょうという発想です。
クリエイターエコノミーの因数分解
結論から言うと、クリエイターエコノミーは以下のトライブで構成されていると考えています。
の5種類です。
全員生活者であり、側面的に、クリエイターとして分岐されます。
また、それぞれ重なりあっています。
生活者
生活者とは、全員のこと指します。
活きるために生産し、消費する人たちです。
生活者もクリエイターエコノミーの主人公です。
サラリーマンとして定年まで働くわけはなく、個人としてどう生きるか、自分の人生を意識的にクリエイトする時代になったからです。
このトライブに対してサービスを提供しているのが、メルカリやクラウドワークスだと考えています。
純クリエイター
広告業界のクリエイターや、漫画家、伝統工芸品の職人、ゲームデザイナーやエンジニア、アーティストなど、いわゆる一般的なクリエイターです。
このトライブは手に職を有しているため、独立しやすい人たちです。
ですが、モノづくりに集中するために、会社に属するメリットも大きいため、会社勤めも多いでしょう。
今後、会社が提供してきた価値がモジュール的にサービス化されることで、より独立が加速するでしょう。
この領域の代表的なサービスは、BaseやStoresなどのEC系、バックオフィス業務の効率化・クラウド化、マーケティング活動の効率化や安価なアウトソースなど、まさに会社にいたとしたらある機能です。
ティーチャー
情報を人に教えたり、特定のジャンルのアドバイスをしたり、勇気づけたりする先生です。
いわゆる先生から、パーソナルトレーナー、ファッションアドバイザー、カラーコーディネーターなどで、基本的には、セミナーや教室で多数に対して教えます。
最近では、ライブ配信やZOOM、オンラインサロン等を活用して、物理的な制約を超えて生徒を増やすこともできるようになりました。
また、他のトライブよりも一対一でのビジネスもしやすいのも特徴です。
特に、物質的な充足の先の高品質なコト消費欲求の高まりやコロナなどのリスク意識から、パーソナル需要が高まっています。
この領域の代表的なサービスは、オンラインサロンやスペースマーケットのような不動産の分割賃借、Mosh(BaseのようなECシステムに仕組みは似ているものの、物品販売ではなくサービス提供に特化したサービス)などがあげられます。
インフルエンサー
SNSやマスメディアで知名度が有り、一定の信頼によって多くの人に影響を与えられる人たちです。
その影響力から、広告案件でマネタイズしたり、商品を開発して販売することで成型を立てることができます。
SNSや発信サービスによって、独立しやすくなりました。
その意味で、上述のトライブと、この領域に対するサービスは一致します。
ですが、この領域ならではのサービスとして、Toridori Baseのようなインフルエンサーと広告主を繋ぐマッチングプラットフォームや、iCON Suiteのようなマーケター向けのインフルエンサーデータベースがあります。
パフォーマー
大道芸人やマジシャン、漫才師など、多数に向けてパフォーマンスをして投げ銭やイベントへのキャスティングや、公演のチケット代でマネタイズします。
ティーチャーと異なるのは、お客さんの目的が勉強なのか純粋な楽しみなのかという点と、1対1でビジネスにするのが難しい点です。
単価を非常に高めているホストやキャバクラは例外的に一対一で成立しているパフォーマーです。
この領域の代表的なサービスは、17Liveなどのライブ配信サービスやTikTokやYoutube、Faniconのようなファンクラブサービスがあげられるでしょう。
コロナを契機に、ライブ配信アプリやTikTokを始めたパフォーマーが非常に増えました。
補足
以上で整理してみました。
それぞれのトライブは重なり合っています。
例えば、アーティストはライブで魅せるパフォーマーでもあり、音楽を創る純クリエイターでもあり、人生の指針や美学を伝えるティーチャーでもあります。
ただし、トライブを跨げば跨ぐほど、活動難易度は上がり、アイデンティティを保つことが難しくなるでしょう。
インフルエンサーとパフォーマーの間で苛まれる方も多く見ます。
パフォーマーとしてフォロワーが増えたものの、コロナでイベントやファン接点が少なく、D2Cを始めてみたが、なかなか売れない。
インフルエンサーとパフォーマーの本質が違うが故に起きる葛藤です。
クリエイターエコノミー事業者として意識的になりたいこと
このように整理をすると、"クリエイター"といえども、様々な職業が無差別的に同居していることがわかりました。
因数分解すれば、それぞれごとに提供すべき価値やサービスが異なることも再認識できます。
事業者は、どのクリエイターがターゲットなのかをしっかり意識しなければならないと感じています。
何を隠そう僕自身も、とあるクリエイターに勧めて、P2Cブランドをやってみたけど、想定していたよりも売れず、心から反省したことがあります・・・。
これは、キングコング西野さんが言う、認知と人気の違いによるものでしょうか。
僕は違うと考えています。
真実は、パフォーマーとして人気があっても、インフルエンサーのように人に影響を与えられるわけではないということです。
西野さんが芸人というパフォーマーからスタートしたのに、インフルエンサーになれたのは、自身に複数トライブの側面を介在させる力があったからだと思います。
全員が全員そんなスーパークリエイターではありません。
クリエイターは(事業者は)、自身の(クリエイターの)本質的なトライブを見極め、活動手段を見極わめていくことが重要です。
その上で始めて、使われるサービスが生み出せるのだと思います。
クリエイターエコノミーというワードに踊らされず、本質的な価値あるサービスを創り、面白いマーケットにしていきましょう。
以上、インフルエンサーやクリエイターという言葉でひとくくりにしてしまう時代へのアンチテーゼ的な自戒です。